第一モード(民謡のモード)とは

第一モードはやや短調よりの響きと力強さが特徴のモードです。日本伝統音楽の基本的なモードとして広く使われています。

二音のモード・三音のモード・複合モード

「二音」とか「三音」のモードと聞いて、音数の少なさに驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。しかし中心音さえ存在すればモードは成立します。下図に第一モードにおける二音のモード、三音のモード、複合モードを示します。中心音は全音符で示してあります。

二音のモード・三音のモード・複合モード

三音のモードを使ってさっそく第一モードの響きを確認してみましょう。

民謡のモード 響きの確認
響きの確認

いかにも和風といった響き。中心音へ向かって進む力強さがあります。伴奏はAマイナー・キーのI-IV-V-Iと一致するようにコードを選び、中心音がバスになるように転回しました。J-POPに第一モードを利用する場合はこのような進行が基本となるでしょう。

中心音への求心力とドミナント機能

「日本和声と調の揺らぎ」では、小泉文夫が発見したテトラコルドの概念には中心音(核音)へ引きつける力があると解説しました。この力を利用して、下例のようにドミナント-トニックのような効果を利用することができます。

民謡のモード 中心音への求心力
中心音への求心力

上例ではバスが中心音(A)と中心音から最も遠い音(E)の間を行ったり来たりしています。これによって解決感が出ていることを確認してください。

いろいろな和音

これまでは基本の三和音を使って響きを確認しました。ここでは他の和音を見てみましょう。

混合和音

後述の「第三モード(律のモード)」と組み合わせた和音です。中間的な響きがするので第三モードへ橋渡しに使える和音です。

民謡のモード 混合和音
混合和音

複合和音

複合モードを同時に鳴らした和音です。混合和音に比べ、第一モードの響きが強調されます。

民謡のモード 複合和音
複合和音

混合+複合和音

混合和音と複合和音を組み合わせた和音です。豊かな響きが特徴です。

民謡のモード 混合+複合和音
混合+複合和音

既存の曲を日本和声でコード付けしてみよう

メロディに第一モードを活用しているJ-POP楽曲としてJITTERIN’JINNの「夏祭り」のサビの部分を取り上げ、日本和声でコードをつけてみます。

民謡のモード 「夏祭り」日本和声によるコード付け
夏祭り

楽譜では第一モードを使用している部分を破線の弧で明示しています。中心音への求心力が感じられるでしょうか? コードは基本的に第一モードを使い、四小節目のコードは第三モードによる和音を使用しています。第一モードと比べ、やや明るい響きがしますね。

最後の小節はAマイナー・キーならVにあたるコードが使用されていますが、不思議なことに全終止感が発生しています。これは第一モードの求心力によるものであり、これこそがJ-POPの「調の揺らぎ」のルーツになっているのです。

まとめ

第一モードの響きがなんとなくつかめたでしょうか。実際の楽曲では第一モードのみを使うというより、第三モードと組み合わせて使うことが多いです。第三モードは明るい響きが特徴ですので、組み合わせれば長・短の響きの違いやコントラストを表現することができます。ここから平行複極調との繋がりや機能和声との併用の可能性が見えてきますが、細かい議論になるため、詳細はKindle本を参照ください(下巻での収録内容ですが、上・中巻での知識が前提になっていますので、上巻からお読みください)。 四度圏と同様に使える便利なツール「環」の紹介もあります。 理論よりも、とにかく指を動かして覚えたいキーボーディストの方には「和風ハノン」がおすすめです。

J-POPの和声学(下)
和風ハノン

道案内

順番通り「第二モード(都節のモード)」の記事か、関連の深い「第三モード(律のモード)」の記事を読むことをお勧めします。すでに一通り読まれた方はトップメニュー「楽曲分析・和声付け例」で最近の投稿をチェックしてみましょう。

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