属複極調とは

属複極調の特徴

属複極調とは、属調・下属調(平行調含む)の関係(例えばCメジャー・キーを基準にF、Gメジャー・キーとA、D、Eマイナー・キー)にある調の間に調の揺らぎがある状態のことです。基準のキーをT(トニック)調、属調をD(ドミナント)調、下属調をS(サブドミナント)調と呼びます(それぞれ平行調を含む)。調の緊張感を対比させたい場合によく使われます。

聴覚を最優先すべき

音楽は聴覚の芸術なので、聴覚から得られる認識を最優先すべき。当たり前のことを言っているように思えます。しかしコード進行を分析するときにはこれが守られないことがあります。例えば下例のような場合です。

属複極調 S調からはじまる
S調から始まる

上例は調号的にはCメジャー・キーですが、サブドミナントコード(F)から始まっています。従来理論ではこれをCメジャー・キーと分析しますが、これは間違いです。なぜならCメジャー・キーとは聞こえ方(和声の効果)が全く違うからです。

このようなコード進行が楽曲のどの部分に使われているか考えてみましょう。……その通り。サビですね。なぜサビに使われるのか。それは他の部分に比べて開放感があるからです。聴覚によれば明らかにCメジャー・キーよりも開放感のあるキーを、調号だけ見てCメジャー・キーと決めつけてはいけません。調の緊張感の観点では、S調はT調よりも開放感があります。よって上例はT調に揺らいでいるS調、つまり属複極調と分析すべきなのです。

J-POPでは見る機会が少ないですが、ドミナントコード(ドミナントセブンスを含む)から始まる大楽節にも同様に調の揺らぎが存在しています。この場合はT調に揺らいでいるD調と解釈します。

王道進行

ネットでは「王道進行」として知られるコード進行があります。これを詳しく見てみましょう。下例を聴いてみてください。

属複極調 「王道進行」
「王道進行」

一小節目はFM7です。これは前の段落で述べたとおりT調に揺らいでいるS調と解釈します。二小節目のCには二通りの解釈があります。一つはT調のI。もう一つはS調のVです。これはどちらに解釈してもOKです。作曲家にとってはこのCがどちらのキーに属しているかなんて大した問題ではありません。それよりもずっと重要なことは、このCにT調とS調の間の「引っ張り合い」を認識することなのです。

例えばよりT調側に引き寄せるために、CをC-G7と置き換えることができます。あるいはS調側に引き寄せるためにCをGm7やEm7(♭5)で置き換えるのはどうでしょう。このようなバリエーションを理論的に導き出すことができることが複極調理論の利点です。

三・四小節目はT調です。ただしCメジャー・キーではなくその平行調であるAマイナー・キーに切り替わります。属複極調は平行複極調のキーを全て含んでいるので、平行複極調のテクニックを属複極調でも使用することができます。

チャーチモードの新解釈

複極調理論においては、チャーチモードはT、S、D調の組み合わせと考えます。例えばCメジャー・キーにD調を組み合わせ、F#を導入することによってCリディアモードを表現します。大楽節全体をCメジャー・キー・Gメジャー・キー・Eマイナー・キーの「引っ張り合い」と考えることによって、全体をリディアモードと考えるよりも色々なキー構成や変化音の混ぜ方を工夫することができます。

リディアモード

リディアモードはT調(メジャー・キー)とD調の組み合わせです。メジャー・キーに、より緊張感の高いD調を組み合わせることにより、明るく上気したような響きが得られます。

属複極調 リディア
リディアモード

上例一小節目において、Cの上にF#が使用されています。これは「部分的に他調へと揺れ動く」パターンです。従来の理論ならC add #11などと表現することも可能ですが、このコードネームはなにも教えてくれません。重要なのは、一・二小節目はD調に寄っているため調の緊張感が高く、三・四小節目はT調(S調と解釈することも可能)に寄せることで、リラックスした雰囲気を演出している、ということを認識することです。五・六小節目ではDを使用して再びD調に寄せ、緊張感を高めました。七・八小節目ではT調に戻ってきます。先ほどのDはダブルドミナントだったと解釈することもこの時点では可能になるでしょう。

ミクソリディアモード

ミクソリディアモードはT調(メジャー・キー)とS調の組み合わせです。メジャー・キーによりリラックスしたS調を組み合わせることにより、明るくイージーゴーイングな響きが得られます。

属複極調 ミクソリディア
ミクソリディアンモード

ドリアモード

ドリアモードはT調(マイナー・キー)とD調の組み合わせです。短調に緊張感の高いD調を組み合わせることにより、スリルや冒険の感覚を表現することができます。

属複極調 ドリア
ドリア

フリジアモード

フリジアモードはT調(マイナー・キー)とS調の組み合わせです。短調に、よりリラックスしたS調を組み合わせることにより、脱力したような雰囲気を表現することができます。

属複極調 フリジア
フリジア

ツーファイブワンの拡張

ツーファイブワンというコード進行があります。II-V-Iですので、S調-D調-T調と拡張できます。「調の揺らぎとは」で紹介した、「クロノ・トリガーのテーマ」風サンプルではこのキー構成方法で大楽節が構成されています。もう一度サンプルを示しておきます。

属複極調 クロノ・トリガー風
クロノ・トリガー風

「調の揺らぎとは」では二つの疑問が残りました。一つ目はコロコロと調を切り替える理由。もう一つは最後に全終止感がある理由です。その回答は、ツーファイブワンに沿ったキー構成で調の緊張感をコントロールし、最後にT調に終止するから、ということになります。

まとめ

扱うキーが一気に六つに増えて、平行複極調よりもわかりにくかったですか? ほぼ探求し尽くされている印象のある平行複極調よりも属複極調は個性の出しやすいテクニックだと思います。しっかりマスターして、調の緊張感の違いを使いこなしたいですね。

もう少し詳しい議論や他の使い方についてはKindle本を参照してください(中巻での収録内容ですが、上巻での知識が前提になっていますので、上巻からお読みください)。

J-POPの和声学(中)

道案内

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