平行複極調とは

梅

平行複極調の特徴

平行複極調とは、平行調の関係(例えばCメジャー・キーとAマイナー・キー)にある調の間に調の揺らぎがある状態のことです。長調と短調の響きを対比させたい場合によく使われます。また日本民謡やフォークソングへの親和性があります。平行複極調からペンタトニックスケールを導き出すことができることがその理由ですが、説明が複雑になるので興味のある方はKindle本を参照ください。

調の揺らぎの効果を最大化するには

「調の揺らぎとは」のページで、J-POPには調の揺らぎがよく使われることを説明しました。しかし闇雲に調の揺らぎを使用しても効果的にはなりません。コツはメロディ構造をきちんと把握して、ここぞというところで調を揺らがせることです。例を示しましょう。下例はFinal Fantasy VIより「ティナのテーマ」(作曲: 植松伸夫)のAメロと同じコード進行を使った例です。

平行複極調の説明 「ティナのテーマ」と同じコード進行
「ティナのテーマ」と同じコード進行

上例では後楽節の冒頭(五小節目)でAマイナー・キーからCメジャー・キーにはっきり調を切り替えています。 「調の揺らぎとは」のページ で説明した「はっきり切り替える」パターンです。後楽節の冒頭はこのメロディのなかで一番盛り上がる部分なので、気分を切り替えるには最適な箇所ですね。なお可能であれば原曲を聴いてみてください。原曲のBメロでは同じ箇所で逆にCメジャー・キーからAマイナー・キーに切り替えており、作曲者が調のコントラストを非常に効果的に使用していることがよく分かります。

代理コードの再解釈

コード理論を学び始めた初心者が最初につまずくのが代理コードではないでしょうか。音楽の先生に「代理コードって何ですか」と聞いても、「I、IV、Vの代わりに使えるコードだよ」と返ってきてモヤモヤした気分になった人もいるかもしれません。聞きたいのは「何に使えるか」じゃなくて「何か」なのに! 平行複極調の考え方によれば代理コードとは平行調に属するコードであり、楽曲が平行調に揺らいでいる時に使用されるコードということになります。代理コードを上手く使った例として、次にカノン進行を説明します。

カノン進行

カノン進行は日本人に人気のあるコード進行で、これを使用したJ-POP楽曲もたくさんあります。バスの整然とした進行の上に長・短の響きが規則的に切り替わることが心地よさを醸し出しているように思います。下例を聴いてみてください。

平行複極調の説明 カノン進行
カノン進行

コード進行を見ると、ちょうど二小節ごとにCメジャー・キーとAマイナー・キーが切り替わっていることが分かります(最後の二小節はまとめのためのコード進行です)。これも「はっきり切り替える」パターンです。この二小節という長さは、メロディの区切りを作るためにも都合の良い長さです。これらの要素が組み合わさって、カノン進行の心地よさが生み出されているのです。

小室進行

小室進行とは作曲家小室哲哉氏が用いたことで有名になったコード進行です。カノン進行と同様に、これも平行複極調の一種です。下例を聴いてみましょう。

平行複極調の説明 小室進行
小室進行

一小節目はAマイナー・キー、四小節目はCメジャー・キーであることは明らかだと思います。それでは二、三小節目はどちらのキーでしょうか。ややCメジャー・キーっぽいかもしれませんが、Aマイナー・キーにも含まれているコードなので、はっきりと断言できません。これは「メロディの区切りで調が切り替わっていたことが分かる」パターンです。

バスの順次進行

バスが順次進行するコード進行もとても人気があります。「となりのトトロ」や「君をのせて」(作曲: 久石譲)のAメロが有名な例です。下例を聴いてみましょう。

平行複極調の説明 順次進行
バスの順次進行

カノン進行と同じメロディを使っている事に気がつきましたか? バスが順次進行する場合も、カノン進行と同じように二小節ごとに長・短の響きを切り替えることができます。カノン進行との違いはコード選択の自由度が高いことでしょう。特に二・四・六小節目には色々なコードを使用することができます。また好みの問題となりますが、カノン進行よりもバスの動きがスムーズで心地よく感じるかもしれません。

まとめ

平行複極調だけで日本人の好みのコード進行がほぼ説明できてしまうことが理解できましたでしょうか。おや、「王道進行」はー? という声が聞こえてくるようです。実は「王道進行」は平行複極調と、次の記事で説明する属複極調の合わせ技です。ぜひそちらもお読みくださいね。

さて、Kindle本では平行複極調についてさらに突っ込んだ解説をしています。この記事では長・短の響きの対比という観点で説明しましたが、さらに根本的には三度をいかに有効活用するか、ということが主眼になります。また冒頭で述べたように、平行複極調からペンタトニックスケールを作ること、その過程で日本民謡との共通点があることも解説します。作曲家の方、作曲家を目指す方はぜひお読みください(中巻での収録内容ですが、上巻での知識が前提になっていますので、お読みになっていない方は上巻からお読みください)。

J-POPの和声学(中巻)

道案内

次は属複極調についての記事を読むことをお勧めします。日本民謡に興味がある方はトップメニューの「和風音楽理論」から興味のある記事を読んでもいいかもしれません。すでに一通り読まれた方はトップメニュー「楽曲分析・和声付け例」で最近の投稿をチェックしてみましょう。

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