同主複極調とは

同主複極調の特徴

同主複極調とは、同主調の関係(例えばCメジャー・キーに対するCマイナー・キー)にある調の間に調の揺らぎがある状態のことです。Fメジャー・キーやB♭メジャー・キーといった、五度圏の「途中」のキー、そしてその平行調を含みます。遠隔調を使うことによるドラマチックな効果が特徴です。

またD調(Cメジャー・キーに対するGメジャー・キー、Eマイナー・キー)、S調(Cマイナー・キーに対するFマイナー・キー、A♭メジャー・キー)を含め、属複極調を使えるように拡張することができます。これによってF#およびD♭が加わり、12音全ての音を使えるようになります。

同主複極調と借用・準固有和音の違い

従来理論では同主短調から借用された和音のことを準固有和音と呼び、例えば下例のように使用します。

同主複極調 準固有和音
準固有和音

従来理論では通常、転調を避けるためIの準固有和音を使用しませんが、同主複極調にはそのような制限はありません。また短調に対する同主長調も同様に扱います。これによってピカルディの三度、ドリアの六度などを同主複極調として扱うことができるようになります。

ドラマチックな調の揺らぎ

準固有和音の借用は単に響きの変化をつけるために使用されます。同主複極調もそのように使うことができますが、それにとどまらず「調の揺らぎ」を導入してドラマチックな効果を利用すべきでしょう。「ゼルダの伝説のテーマ」(作曲: 近藤浩治)に似せて作った下例では、メロディ構造を考慮して注意深くキーが配置されています。

同主複極調 「ゼルダの伝説」風
「ゼルダの伝説」風

ジャズへの傾斜を避ける方法

同主長調と同主短調を同時に使用すると「ジャズっぽく」なります。例えば下例のような感じです。

同主複極調 ブギウギ風
ブギウギ風

もちろん意図して「ジャズっぽく」したい場合は問題ありません。しかしその場合は複極調理論ではなくジャズ理論を使用すべきです。複極調理論では「ジャズっぽさ」を避ける方法をいくつか提案します。

まず上例において「ジャズっぽさ」を発生させている特徴を抽出すると、
・調の揺らぎがない
・長三度と短三度がぶつかることが多い
・ドミナントセブンス(増四度)の使用頻度が高い
・半音階の使用頻度が高い
となるでしょう。よってこれらの特徴を避ければよいということになります。詳細はKindle本に譲りますが、取り除くことによって可能になる表現がある、ということを念頭に置き、響きが複雑になりすぎる場合には、本質的ではない要素を取り除くことを検討しましょう。

映画的効果

同主複極調の特徴は「ドラマチックな効果」です。そのため映画のBGMとして使用されることがあります。例えばホルストの「火星」を真似た「スターウォーズのテーマ」(作曲: J.ウィリアムズ)を真似た下例を聴いてみましょう。

同主複極調 映画的効果1
映画的効果1

バスはCをキープしています。Cメジャー・キーかCマイナー・キーかははっきりしません。上声のキーはフラット系の調のようです。このように「同時に使用する」パターンとして同主複極調が利用されています。ゲームのBGMではファンファーレを作曲する場合に上声のような音型を使うことが多いです。

次の例は、オクターブを三等分または四等分した音程でコードが上昇・下行してゆくものです。等分しているため四つまたは五つ目のコードが元のコードに一致します。

同主複極調 映画的効果2
映画的効果2
同主複極調 映画的効果3
映画的効果3

これらの音程は同主調と関係が深く、コードが切り替わるたびに遠隔調への揺らぎを発生させ、さまようような印象があります。宇宙空間とか海・空・森など、大自然の驚異の雰囲気を表現するのに使えそうです。

三つ目は遠隔調と元の調を往復するものです。大げさだったり、コミカルな感じを表現できます。ジブリアニメのアクションシーンが思い浮かぶかもしれませんね。

同主複極調 映画的効果4
映画的効果4

まとめ

同主複極調は12個全ての音を使うことができるため、もはや「何でもあり」な状態になっています。きちんとキー構成を設計し、それぞれの部分の対比をはっきりさせることが、複極調理論としては理想的です。また「何でもあり」な分、全てが過剰になって、全体としてグレーな印象になりがちです。必要なものと不要なものを見分ける能力が必要となります。

これまで平行複極調、属複極調、同主複極調という、代表的な複極調を説明しました。これ以外の複極調も当然可能です。いろいろと試してみましょう!

今回の記事では複雑になりすぎる部分を省略しました。もし興味があればKindle本を参照ください(中巻での収録内容ですが、上巻での知識が前提になっていますので、上巻からお読みください)。

J-POPの和声学(中)

道案内

機能和声に基づいた複極調の説明はこれで終了です。しかし「調の揺らぎ」は機能和声だけではなく、日本和声の中にも存在しています。せっかくですから、日本和声の「調の揺らぎ」についての記事も読んでみてはいかがですか? すでに一通り読まれた方はトップメニュー「楽曲分析・和声付け例」で最近の投稿をチェックしてみましょう。

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